私は京都の大手レンタル着物店で数年間、
世界各国から訪れるお客様の着付けを担当してきました。
延べ数千人の方の体型や文化の違いに触れる中で、
「どんな体格の方にも美しく快適に着てもらう工夫」をたくさん学びました。
今回は、現場での経験から見つけた“サイズの壁を越えて美しく仕上げる工夫”と、外国人やふくよか体型の方にも対応できるお役立ちグッズを、使い方のポイントとともにご紹介します。

着付け前の心構えと準備
着物はサイズがあらかじめ決まっているため、外国人のお客様には小さめに感じられることを想定し、その範囲の中でできるだけ美しく見える着姿を目指しました。
会場のレンタルスペースは囲いのない土足の場所だったため、事前に養生テープで着付けスペースと撮影スペースの位置を区切りました。7名の方を2名の着付け師で対応し、2名ずつ2回、最後に1名を着付けしました。
着物は事前に写真で選んでいただき、着付け当日はそのセットを風呂敷の上に並べ、順番に着付けを進めました。制限時間が2時間だったため、お一人あたりおよそ15分を目安にペースを配分しました。
外国のお客様は靴を頻繁に脱ぐ習慣がないため、椅子を用意して腰掛けて靴を脱いでいただきました。スムーズに着付けを始めるためにも、事前の準備と余裕を持つことが大切だと感じました。
補整の工夫
今回はオープンスペースで、洋服の上から着付けを行いました。本来なら、和装ブラや補整パッド、タオルなどを使って腰のくびれやバストの段差をなだらかに整えますが、着物と帯のサイズが小さいため、今回はそれらの補整を省きました。
着付け小物の工夫
腰紐
腰ひもはストレッチ素材のものがとても役立ちました。やわらかく伸びるので、ウエストサイズのある方でも安心して使えます。
胸紐
胸ひもは、やはりコーリンベルトが欠かせません。今回は着物のほうだけに使いましたが、準備ができる方は長襦袢にも使うのがおすすめです。衿合わせが広がらず、位置をしっかり安定させることができてとても便利でした。
伊達締め
伊達締めは、一般的なサイズの博多織のものが一番使いやすいです。ストレッチ素材やメッシュのマジックテープ式のものは、サイズが合わないことがあるため注意が必要です。
その点、博多織の伊達締めなら、長さが足りない場合でも一重巻きで調整できるので便利です。
実際、訪問着の着付けをするときに、お客様の若いころに使っていたマジック式の伊達締めが短くて苦労したことがあります。その経験からも、巻くタイプの伊達締めのほうが安心して使えると感じています。
着付けの工夫
身幅が狭い場合
マイサイズの着物の場合身幅は脇線と衽線が体の左右対称に来ますが、サイズが小さい場合は下前を浅くして
上前をなるべく脇線に近づけるように合わせることです。
着丈が短い場合
腰紐をなるべくしたに締めおはしょりを出す工夫をします。それでもおはしょりがでない場合はなしでも大丈夫です。
裄が短い場合
裄は写真を撮る時に腕をまあるく前で合わせると自然と手首近くまで来てくれます。腕を真っ直ぐ伸ばさないことです。
帯や付属小物の工夫
付帯(つけおび)
胴に巻く部分やお太鼓の部分がきれいにでない場合に便利なのが「付け帯」です。付け帯とは、帯を三つの部分──胴に巻く部分・お太鼓の部分・手先の部分──に分けて仕立てた帯のことです。胴は胴で巻き、お太鼓は二重太鼓に形作り背中に載せます。それぞれあらかじめ形ができているため、胴回りが大きい人にも、帯結びがしやすくきれいに仕上がります。

今回は、姉からもらった袋帯があったので、「コンポーネント帯」というYouTubeチャンネルを参考に、思い切って仕立て直して準備をしました。
そのおかげで、帯結びの負担が減り、短時間で二重太鼓をきれいに仕上げることができました。仕上がった二重太鼓の形を、とても喜んでいただけて嬉しかったです。
もう一つ、名古屋帯の付け帯も用意していたので、知人の着付け師さんの腕前もあり、美しいお太鼓柄をしっかり出すことができました。
帯の工夫としては、ちょうちょ結びにする際に、十分な長さの半幅帯を選びました。また、もう一枚の名古屋帯は全通柄だったため、前柄やお太鼓柄をどこでも出せるのが利点です。
体格に合わせた帯の選び方として、そのような工夫も大切だと感じました。

現場での工夫と体験談
時間配分の工夫
着付けの前に、小物を取りやすい位置に並べておくと、着付けの途中で探す手間がなくスムーズに進められました。
右手で取る小物は右側に、体を後ろに回したときに右手で取りやすいものは、自分から見て左側に置くようにしました。
写真撮影のサポート
各自のスマホで撮影し、とても喜んでいただけました。
ポーズの取り方や手の所作、足の置き方を実際にお見せし、一緒に写真を撮ることで、楽しく交流することができました。
安心感を与える声かけ
「Are you OK?」「Not so tight?」「Beautiful!」など、簡単な英語で声をかけながら笑顔で対応しました。
言葉が通じにくい場面でも、身振り手振りでサポートすることで安心感を持っていただけました。
また、写真写りを意識し、衿の抜き加減や背中・裾のラインを整えて、写真に映える美しいシルエットを心がけました。
まとめ
今回の体験を通して、体格の違いがあっても工夫次第で美しく仕上げられることが分かりました。
着物・帯・着付け小物を整理して一箇所にまとめておくことで、シャツやズボンのままでも、囲いのない場所でスムーズに着付けが行えました。
また、ストレッチ腰紐や付け帯を活用することで、サイズが合わなくても締め付け感なく、美しい着姿を作ることができました。
日本的なポーズや所作をお見せすることで、着物姿での撮影も楽しんでいただけ、満足してもらえたと思います。
さらに、小さな声かけと笑顔を心がけることで、外国人観光客やふくよかな体型の方にも安心して心地よく体験していただけました。
これらの工夫は、外国の方だけでなく、日本人で体格のしっかりした方にも応用できます。
実際に、レンタル現場で学んだ臨機応変な対応力と、事前準備の大切さを改めて実感しました。着る人も着せる人も、どちらも心地よく仕上げられたと思います。
今回の体験は外出せず、写真撮影のみだったため、多少サイズが小さい着物でも十分対応できました。
長時間レンタルまでは必要ないけれど、気軽に着物を楽しみたい年配の方にもぴったりの内容だったと思います。
今回は、姉の着物に私の襦袢や半幅帯、着付け小物を合わせ、さらにツアーガイドさんの奥様の着物や帯、小物も総動員して対応しました。
すべて正絹で標準サイズのものでしたが、それでも体験を楽しんでいただけたのは、心強いレンタル店時代の同僚のお力添えのおかげです。


海外のマダムにも、日本の着物の素晴らしさを味わっていただけて、本当に嬉しく思いました。
この日のために、何度もコーディネートの打ち合わせを重ねてきた甲斐がありました。
私自身にとっても、貴重で心に残る素晴らしい経験になりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事が少しでも参考になれば嬉しく思います。
着付け教室も開いておりますので、ご興味のある方やご質問のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

コメント