この記事は「体型や国籍を問わず、美しく快適に着物を楽しみたい人をサポートする着付け師」に読んで欲しい記事です。
私は京都の大手レンタル着物店で数年間、世界各国から訪れるお客様の着付けを担当してきました。
延べ数千人の体型や文化の違いに触れる中で、「どんな体格の方にも美しく快適に着てもらう工夫」をたくさん学びました。
その経験を活かし、今回はツアーガイドの方から依頼を受けて、米国人女性の着物体験イベントをサポートさせていただきました。
この記事では、“サイズの壁を越えて美しく着付ける”ための実践的な工夫や、着物に不慣れな外国人にも快適に楽しんでいただけるグッズの使い方を、実例とともにご紹介します。
もちろん、ふくよか体型の方全般にも役立つ内容ですので、ぜひ参考になさってください。

事前の心構えと準備
イベントは京都市内のレンタルスペースで行われ、外出はせずフォトセッションのみの内容でした。短時間で美しく仕上げることが求められるため、段取りとチームワークが重要でした。
着物はサイズがあらかじめ決まっているため、米国人女性にはやや小さいことを想定し、「できるだけ美しく見える着姿」を心構えとしました。
会場は囲いのない土足のスペースでしたので、畳敷で着付けエリアを作り、撮影エリアにはビニールシートを敷いて養生テープでしっかり固定し、着物が汚れないように清潔な、なおかつ安全な足元を確保することが重要です。
当日は7名のお客様を2名の着付け師で担当し、2名ずつ2回、最後に1名を着付け、仕上がった方から撮影、着替えという流れで進めました。
着物は事前に写真で選んでいただき、当日は風呂敷の上に各セットを並べ、順番に着付けを進めていく段取りです。
制限時間は2時間、1人あたり約15分の余裕を持ったペース配分にしました。
また、外国のお客様は靴を脱ぐ習慣が少ないため、椅子を用意し腰掛けたまま靴を脱いでいただくなど
スムーズな進行のためには、事前の心構えと準備そして時間の余裕を持つことが大切だと改めて感じました。
体型補整の工夫
今回はオープンなスペースだったため、着付けは洋服の上から行いました。
本来であれば、和装ブラや補整パッド、タオルを使って腰のくびれやバストの段差をなだらかに整えます。
しかし、着物自体は標準的なサイズで、ふくよかな外国人のお客様にとっては、やや小さめな寸法でした。
そのため、補整を加えると着物や帯がさらに足りなくなる恐れがあり、今回はあえて補整を省きました。
着付け小物の工夫
腰紐
腰ひもはストレッチ素材のものがとても役立ちます。やわらかく伸びるので、ウエストサイズのある方でも安心して使えました。
胸紐
胸ひもは、やはりコーリンベルトが欠かせません。今回は着物のほうだけに使いましたが、準備ができる方は長襦袢にも使うのがおすすめです。衿合わせが広がらず、位置をしっかり安定させることができてとても便利でした。
また、伊達締めと一体型のコーリン和装じめがあればな便利です。
伊達締め一体型は自分用にも便利です。
伊達締め
伊達締めは、一般的なサイズの博多織のものが一番使いやすいです。ストレッチ素材やメッシュのマジックテープ式のものは、ふくよかさんには長さが足りないことがあるため注意が必要です。
その点、博多織の伊達締めなら、長さが足りない場合でも一重巻きで調整できるので便利です。
実際、お客様の訪問着着付けをするときに、若いころに使っていたマジック式の伊達締めが短くて使えなかったことがあります。その経験からも、巻くタイプの伊達締めのほうが安心です。
着付けの工夫
身幅が狭い場合
上半身は、コーリンベルトでしっかり左右対称に固定します。
もし身幅が足りない場合は、襦袢の衿を少し多めに見せて調整しましょう。
裾合わせは、着物のサイズが合っている場合、上前の脇線と衽線(おくみせん)が体の中心で左右対称になります。
サイズが小さい場合は、下前を浅めに合わせ、上前の柄が正面にきれいに見えるように整えます。
ポイントは「上前を美しく見せること」です。
着丈が短い場合
背の高い方は、腰紐を少し下めの位置で締めて、おはしょりが出るように工夫しましょう。
それでもおはしょりが出ない場合は、無理に作らず「おはしょりなし」でも大丈夫です。
帯の下線をまっすぐきれいに整えれば、十分に美しく見えます。
裄が短い場合
裄が少し短い着物の場合は、写真を撮るときに腕をやや前に出し、丸く自然に合わせましょう。
こうすると、袖口が手首の近くまできて短さが目立ちません。
腕はまっすぐ伸ばさず、ゆるやかに曲げるのがポイントです。
帯の工夫
最近の帯は長さにゆとりがありますが、昔の帯や柄の位置が決まっている帯は、ふくよかな方は注意が必要です。
今回は昔の帯を多く使ったため、そのぶん工夫が求められました。
工夫1.付け帯(つけおび)
袋帯の長さが足りず、お太鼓がうまく形にならない場合に便利なのが「付け帯」です。
付け帯は、帯を三つの部分──胴に巻く部分・お太鼓の部分・手先の部分──に分けて仕立てたものです。
まず胴の部分を体に巻き、その上にお太鼓を二重太鼓の形に整えて背中に載せます。
胴回りが大きい方でも簡単に美しく結ぶことができます。

今回は、姉からもらった袋帯を「コンポーネント帯」というYouTubeチャンネルを参考にして、思い切って付け帯に仕立て直し準備しました。
帯結びがとても楽になり、短時間できれいな二重太鼓に仕上がりました。お客様にもとても喜んでいただけ、仕立て直しの手間をかけた甲斐がありました。
また、名古屋帯の付け帯も、レンタル店時代の同僚である着付け師さんの技術のおかげで、前柄もお太鼓の柄も美しく出すことができました。
工夫2.全通柄
さらに帯の工夫として、全通柄の帯を用意しました。
半幅帯は、十分な長さのある現代の帯だったので、羽根を4枚作る華やかなリボン結びもきれいに仕上がりました。
もう一枚の名古屋帯も全通柄だったため、前柄やお太鼓柄を気にせず出せるという利点があり、とても使いやすかったです。
体格に合わせて帯を選ぶときには、こうした工夫もとても大切だと感じました。

現場での工夫と体験談
着付け小物の配置
着付けの前に、小物を取りやすい位置に並べておくと、着付けの途中で探す手間がなくスムーズに進められました。
右手で取る小物は右側に、後ろに回ったときに右手で取りやすいものは、自分から見て左側に置くようにしました。
写真撮影のサポート
皆さんそれぞれのスマホで、着付けの途中や着上がり後の様子を自由に撮影され、とても喜んでくださいました。
手の動きや足の置き方など、ポーズの取り方を実際にお見せし、リクエストに応えて一緒に撮影する場面もありました。
和やかな雰囲気の中で楽しく交流する時間となり、許可をいただいてインスタグラムにも写真を掲載し、後からもご覧いただけるようにしました。
写真撮影時には衿や裾のラインをさりげなく整えて差し上げ、仕上がりの美しさでも安心していただけるよう心がけました。
安心感を与える声かけ
「Are you OK?」「Not so tight?」「Beautiful!」など、簡単な英語でやさしく声をかけながら、笑顔で対応しました。
言葉が十分に通じない場面でも、身振りや手振りを交えて気持ちを伝えることで、安心していただけたように感じます。
表情や声のトーンを大切にしながら、一人ひとりがリラックスできるよう心がけました。
まとめ
今回の体験を通して、体格の違いがあっても工夫次第で美しく装っていただけることが分かりました。
事前に「段取りを整えて、お客様に着物体験を楽しんでもらう」という気持ちを持っていたからこそ、成功できたと思います。
また、着物や帯の準備を工夫し、ストレッチ腰紐・コーリンベルト・博多織の伊達締めなどの便利な小物を使うことで、以下のことが分かりました:
・締め付け感がなく美しい着姿が作れる
・お客様がシャツやズボンのままでも着付けできる
・囲いのない開放的な場所でもスムーズに作業できる
また、日本らしいポーズや立ち居振る舞いをお見せすることで、撮影も楽しんでいただき、皆さんに満足してもらえたと思います。
さらに、優しい声かけと笑顔を心がけたことで、外国人観光客のふくよかな体型の方にも、心地よく体験していただけました。
これらの工夫は、外国の方だけでなく、日本人でふくよかな方にも応用できます。
レンタル店で学んだ臨機応変な対応力で、着る人も着せる人も、どちらも心地よく仕上げられたと思います。
今回は外出せず、写真撮影のみだったため、多少サイズが小さい着物でも問題なく対応できました。
長時間レンタルまでは必要ないけれど、気軽に着物を楽しみたい年配の方にぴったりの体験内容だったと思います。
今回の準備では、姉の着物に私の襦袢や半幅帯、着付け小物を合わせ、ツアーガイドさんの奥様の着物や帯、小物もフル活用しました。
どれも正絹でとても美しい品ばかりだったので、お客様から「どこで買えるの?」と聞かれる場面もありました。
詳しい説明は難しいため、「とても高価なものなんです」とだけお答えしましたが、美しいものは世界共通で伝わることを改めて感じました。海外からいらしたお客様にも、日本の着物の美しさを感じていただけて、本当に嬉しかったです。事前に何度もコーディネートの相談を重ねてきた努力が報われた瞬間でした。


そして何より、この体験がうまく運べたのは、レンタル店時代の心強い同僚のおかげです。
私にとっても、忘れられない素晴らしい体験となりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事が少しでも参考になれば嬉しく思います。
着付け教室も開いておりますので、ご興味のある方やご質問のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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