先日、少し珍しいご依頼をいただきました。
古い戸建てを購入された方から、「前の持ち主が残していった着物がたくさん出てきたので、残す価値があるかどうか見極めてほしい」という有料のご相談です。指定のレンタルスペースまで伺い、実際に着物を一枚一枚拝見してきました。
今日は、その時の見極めのポイントを、皆さんにも共有したいと思います。おうちの片付けや、ご実家の着物整理をされる方の参考になれば嬉しいです。
今回の状況
着物・羽織・襦袢・帯を合わせて、なんと約30枚。すべて40年ほど前のもののようでした。
一枚ずつ広げていくと、正直「これはすごい」と驚くような、状態も柄も良いものが多く出てきました。依頼者さんが「捨てるには忍びない、でもどうしたらいいか分からない」とプロに見てほしくなる気持ち、とてもよく分かるクオリティでした。

見極めのチェックポイント
① まずニオイをチェック
今回、全ての着物にカビ臭がついていました。これは長期間タンスにしまわれたままの着物では非常によくあることです。
ニオイだけであれば、陰干しや専門のクリーニングでかなり改善します。ニオイがあるからといって即「処分」ではありません。ただし、後述する「シミ」や「変色」とセットで見ていく必要があります。
② シミ・カビの具合を見る
- 帯が1点、シミが目立つ状態でした。
- それ以外は、ほとんどシミが見当たりませんでした。これはとても不思議でした。なぜなら、カビ臭はするのに、表地、裏地共に綺麗だったのです。一般的には、そんな状態なら裏地にシミがついていることがほとんどだからです。
シミの有無と範囲は、修復にかかる費用に直結します。1点だけなら「これは思い出として残す」「これは処分」と判断しやすいのですが、枚数が多いとシミ抜きだけでも合計金額はかなりのものになります。
③ 裏地・八掛の変色は要注意
今回、一番驚いたのがこれでした。振袖の表地はまだ十分使えそうな状態だったのですが、裏地(胴裏)が全面真っ茶色に変色していたのです。八掛は化繊のようでシミはついていませんでした。
表だけ見て「まだ着られそう」と判断してしまうと危険、という良い教訓になりました。裏地の変色は、湿気やカビ、経年劣化のサインで、そのままでは着用できません。八掛の交換も必要になることがあり、これも費用がかかります。
④ サイズは合うか?を必ず確認する
今回、一番悩ましかったのがこの点です。
40年ほど前のお着物は、当時の小柄体型に合わせて仕立てられているため、着丈・身幅ともに今の依頼者さんの体格には足りませんでした。帯もすべて短めで、そのままではきちんと締められない状態です。
品物としての価値は高くても、「今の自分の身体で気持ちよく着られるか」は別問題。ここをどこまで直すか(あるいは直さず割り切るか)が、一番の分かれ道になります。
※なぜこれが 40年ほど前の着物だとわかったのかというと、8 分丈のコートの背中の部分に当て紙として変色した当時の新聞紙が入っていたからです。その新聞の日付は 1980 年でした。それを目にしたときは、依頼者さんと顔を見合わせ驚きました。前述したように、コートの裏地はまっさら状態でした。不思議なことに…。
⑤ 虫食いは残す・処分の明確な線引きに
ウールの着物には虫食い穴が見つかったため、これは思い切って処分としました。虫食いは修復してもキリがなく、他の着物への虫の移りも心配なので、早めに手放す判断をおすすめしています。
ポリエステルの喪服と喪服帯についても、今回は処分の方向でお話ししました。喪服は「万一の時に慌てず用意できる」ことが一番の価値ですが、寸法も家紋も合わず、人前に出られる状態ではなかったため、無理に残す意味はないと判断しました。
「残す」「処分」の判断まとめ
今回のケースでは、大まかにこのように分かれました。
- 処分:虫食いのあるウール着物、状態の合わないポリ喪服・喪服帯
- 要検討(手を入れれば残せる):シミのある帯、裏地変色の振袖、サイズが合わない着物や帯の数々
- そのまま残せる:目立った傷みがなく、サイズさえ合えば活躍しそうなもの
品物そのものの質は良いものが多く、「捨てるのはもったいない」というお気持ちは十分理解できる内容でした。ただし、修復に出す枚数が多いと、費用はまとまった金額になります。すべてを直して残すのか、状態の良いものだけに絞るのか、あるいはリメイクという形で新しい形に生まれ変わらせるのか。この先の選択は、依頼者さんの思い入れとご予算次第、というのが正直なところです。
余談:夢中になりすぎた現場
実はここだけの話、今回の現場では写真を撮り忘れそうになる一幕がありました。着物が次から次へと出てくるので、記録することよりも見極めそのものに前のめりになってしまい、気づけばシャッターを切るのをすっかり忘れていたのです。
「あ、写真忘れてますよ」と教えてくださったのは、依頼者さんご本人でした。おかげで着物や帯を並べた様子を何とか残すことができました。着姿の前や後姿、帯を合わたコーディネートについては、依頼者さんご自身のスマホでしっかり記録させていただいたので、そちらは安心です。
夢中になれるのはプロとして悪いことではないと思いつつ、記録の大切さも改めて実感した一日でした(汗)
おわりに
ご相談いただく方の中には、古い着物の素晴らしさに心動かされる方がたくさんいます。
「もったいないから残したい」というお気持ちと、「今の自分に合うか」という現実、この二つの間で、どう折り合いをつければいいか、みなさん迷っておられるのです。
ご実家やご親族のお着物の整理でお困りの方は、一人で抱え込まず、ぜひ一度プロの目で見てもらうことをおすすめします。今回のように、残すべきものと手放してよいものが整理できるだけでも、気持ちがずいぶん軽くなるはずです。
ご相談、お待ちしています。お問合せからどうぞ。

「衿元がうまく決まらない」「帯結びが苦手」——記事だけでは難しいところは、直接お教えできます。京都で着付け教室を開いています(講師:日本着装協会認定講師 みつ子)。
初心者向けの基礎科(全8回)、苦手克服のフリーコース、タンスの着物をまるごと相談できる箪笥診断、夏季限定のワンコイン浴衣レッスンもあります。
