暑い季節でも、フォーマルな場に適したドレスコードは重要です。
冠婚葬祭や改まった集まりでは、きちんとした印象と涼しさを両立できる着物選びが大切です。
今回は、夏のフォーマルな場にぴったりな「絽(ろ)の着物」について、選び方やコーディネートのポイント、着るときの注意点を、着物歴30年の経験を持つ私が大人の女性のためにわかりやすくご紹介します。
結論
大人の女性の夏の装いは、涼しさと上品さを両立させることが理想です。
夏のフォーマル着物は「絽」がぴったり
暑い季節のフォーマルな場でも、きちんとした服装は大人のマナーです。
夏用の着物として人気の「絽(ろ)」は、生地に透け感のある織り方がされていて、夏にぴったりの正絹素材の着物です。
フォーマルの場では、訪問着・付下げ・色無地の3種類が基本ですが、これから1枚買うなら「付下げ」がおすすめです。
柄が控えめなので、暑い時期でも見た目に涼しげで、いろいろな場面に着やすいです。
訪問着は華やかすぎて、色無地は地味すぎると感じるときに、「付下げ」がちょうどよい中間の雰囲気になります。
薄いクリーム色の地に墨絵の柄があり、裾のあたりには薄い緑色のぼかしが入った付下げの着物です。

バッグは絽の生地の箱型、草履も白ベースの鼻緒と台でフォーマル感を出しています。

色無地も一枚持っておくと便利ですが、濃すぎる色は重たく見えるため、淡いグレーや藤色、水色など、涼やかで品のある色を選ぶと良いでしょう。
汗じみが残ってしまったので染め直した竪絽(たてろ)の色無地の着物です。金彩が入った絽の名古屋帯を合わせて、フォーマルで涼しげな印象に仕上げました。

帯は「夏の袋帯」を軽やかに合わせて
着物が絽であれば、帯も同じく「夏用」の袋帯を合わせます。
紗や絽で織られた袋帯は、見た目にも涼やかで軽い印象を与えます。
フォーマルには金銀糸をあしらった帯も選べますが、夏の日差しの下では落ち着いた柄や色合いがより品よく映ります。
いぶしたような金銀で帯の存在感がほどよく控えめだからこそ、全体の雰囲気がすっきりまとまり、装いに涼しさが生まれます。
昔、嫁入り道具として誂えた花柄の絽の付下げに合わせて、帯はゑり善で着物の魅力を引き立てるさざれ石に流水柄の一本を新たに購入しました。
このように手持ちの着物を活かして、帯を年齢に合ったものに変えるだけでも十分です。
今回はセール品を探すつもりでお店に行ったのですが、気に入った帯は割引の対象外。
結局、定価でしたが「これなら年齢を重ねても長く使える」と感じ、思い切って購入を決めました。

着物の色合いにもよりますが、下の帯のように少し落ち着いたトーンを選ぶと、上品でフォーマルな印象になり長く使えます。購入というよりは、「色や柄選びの参考」として見ていただければと思います。
たくさん数を揃えるよりも、質の良い一本を選ぶことで、実用的かつ心理的にも満足度が高く、賢い選択となるのです。
小物は「幅広く使える」物
帯締めや帯揚げなどの小物類は、フォーマル感を損なわず、それでいてフォーマル以外にも幅広く使えるものを選ぶのが賢明です。
帯締めは、淡い色合いの無地や少し光沢のあるものが最適。帯揚げも同様に、絽素材の白っぽい地色や淡色系を選べば、他の着物にも合わせやすくなります。多色使いを避け3色以内に収めるとスッキリとまとまります。
濃い色は避け、少し柔らかさのある薄い色の小物を選ぶことで、フォーマルからカジュアルシーンまで取り入れやすい着こなしができます。
シニア世代の装いには、個性的な色よりも、肌や着物になじむ落ち着いた色合いを選ぶのがおすすめです。

夏着物用の一揃えを持って置けば安心です。
帯揚げは、薄いクリーム色に薄っすらと斜め格子柄入り。帯締めには、着物の裾の緑色を取り入れて、全体のバランスを整えました。すっきりとしつつ、地味になりすぎないコーディネートに仕上げました。

バッグと草履も、夏仕様の物
バッグや草履は、着物の印象を左右する重要なアイテム。フォーマル向けとカジュアル向けを別々に持つのが理想ですが、着物を着る頻度が少ない方は、どちらにも対応できるデザインを選ぶと便利です。
たとえば、バッグは金銀がほんの少し入ったものやベージュ系の控えめな色合いが涼し気です。フォーマルにはつや感のある布張りのタイプが好ましいです。草履も、高さがありすぎず、基本的に白や薄い色なら、どんな着物にもマッチします。
見た目の印象がシンプルであれば、フォーマルな訪問にも、ちょっとした集まりにも活躍してくれますよ。
バッグは絽生地の流水模様でゑり善で購入、草履は銀座もとじで台と涼し気な鼻緒を選んでオーダーしました。
草履やバッグもあまり目立たない色柄が何にでも合わせやすくオススメです。

注意点
「洗い+汗抜き」が必須!
夏の着物は、知らず知らずのうちに汗をたくさん吸っています。着用後のお手入れは「洗い+汗抜き」が必須!
そのまましまってしまうと、シミや黄ばみ、カビの原因になり、大切な着物が台無しに…。
着用後は、必ず「汗抜き」や「丸洗い」に出すことをおすすめします。信頼できる着物専門のクリーニング店で、きちんとお手入れしてもらうと安心です。
ただ、汗取りをお願いしますより、汗をかいた場所や量などをあらかじめ伝えておくと、より的確にお手入れしてもらえます。
特に正絹の絽は繊細な素材ですので、早めのメンテナンスが着物を長持ちさせるコツになります。
私の失敗談です。よかったら参考にしてください。

着物と襦袢のサイズを合わす
夏の着物は生地が薄く透けやすいので、下に着る襦袢(じゅばん)のサイズをきちんと合わせることがとても大切です。
特に注意が必要なのは 袖口 と 裾(すそ) の部分です。
• 袖口:襦袢の袖は、着物の袖より1~2ミリ短めにするときれいに見えます。
• 裾:襦袢の裾は、着物の裾からはみ出さないように、ほぼ同じ長さにするのが理想です。
襦袢が短すぎると、足首が透けて見えてしまい、後ろ姿が美しくなくなります。
透け対策として「居敷当(いしきあて)」という布を付ける方法もありますが、その部分だけ白っぽく目立つこともあります。そのような場合は、あえて居敷当を付けない方が自然に仕上がります。
美しさの要は着付け
どんなに上等な着物や帯を身に付けても「大人の女性らしい着付け」が美しさの要。
せっかく着物を着るなら、着付けも涼しげに見えるように。
襟元はゆったりつまりすぎず、帯は高すぎず、が大人の女性の夏着物に適した着付けです。
「着慣れていないから仕方ない」ではなく、きれいに着ることが大人のたしなみです。
たとえば、おはしょりや背中のしわなどを整えると更にぐんと美しく見えます。
特にフォーマルな場面では、「清潔感」と「品格」が何より大切。
自分で着るのが難しい場合は、プロにお願いするのも一つの方法です。
そして着姿が整うと、自然と背筋も気持ちもピンと引き締まる——それが着物の力です。
権威性がある人や雰囲気がある人以外はどんなに良い着物を着るより着付けを丁寧にすることがのほう重要です。
洋服に置きかえてみても、同じようなことが言えると思います。
まとめ
夏のフォーマル着物には「絽の付下げ」がおすすめです。
夏着物は着る機会が少ないため、フォーマルからカジュアルまで幅広く使える「付下げ」なら、一枚で安心して着回せます。
もちろん自分のライフスタイルに合わせて、訪問着や色無地の方が出番が多いならば、それらの着物も自信をもってフォーマルシーンに臨めるでしょう。
また、汗対策をしっかりして涼しく着ることを意識した着付けをすることで、大人の女性らしい品格のある着こなしになります。
着物が薄いので、下着が透けないようにしたり、襦袢とのサイズを工夫することも大切です。
この夏は、涼やかで上品な一枚をまとい、着物でフォーマルな場を楽しんでみませんか。
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着用例
講師として生徒さんの修了パーティーに出席しました。
金彩のトンボ模様をあしらったグレーの絽の付下げに、白地の紗の袋帯を合わせました。落ち着きがありながらも涼しげで華やかな装いになります。


絽の帯揚げと、夏のフォーマルシーンにふさわしい帯締めを合わせました。白い帯に合わせるため、少し引き締め感のあるレンガ色を選び、雪輪模様があしらわれたものにしています。

最後までお読みいただきありがとうございます。この記事が参考になれば嬉しいです。
着付け教室を開いています。ご感想、ご質問等お寄せください。
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