着物や帯を見て「素敵!」と思った瞬間、ついその場で購入してしまいたくなること、ありませんか?
私もこれまで、心が動いたままに買い物をしてきたことが何度もあります。
実は私、以前は着付け講師として仕事をしていた時期がありました。
そのため、「これは仕事だから」「講師割引があるから今のうちに買っておこう」といった言い訳めいた気持ちで買ってしまったことも少なくありません。
今振り返ると、「本当に必要かどうか」よりも、「講師として持っていた方がいいのでは?」という肩書きへのとらわれが、判断を曇らせていたように思います。
そして現在、終活を意識する中で、高価なものほど手放しにくく、持っていること自体が心の負担になることにも気づきました。
これから着物を楽しみたい方には、私のような後悔をしてほしくない。
この記事では、「後悔のない着物購入のための“ちょっとしたコツ”」を、私自身の経験を交えてご紹介します。
買う前に、一呼吸おいてみる
「今買わないと売り切れてしまうかも…」
「限定品だし、今がチャンスかも…」
そんな気持ちが湧いたときこそ、一度立ち止まって深呼吸。
「これは本当に今、私に必要?」と、自分に問いかけてみることが大切です。
勢いや高揚感に流されて買ったものほど、後で使わずにしまい込まれてしまうことが多いものです。
着物を仕事でもよく着ていた私ですら、この罠に何度もはまってしまいました。今思えば、反省することばかりです。
「出会わなければ買ってなかった」ものに要注意
着物屋さんの展示会でお食事をごちそうになり、自分が上得意として扱われているような気分になっていました。その場の雰囲気に流されて、なんとなく義理も感じてしまい、つい購入してしまうこともありました。
買った直後は気持ちが高まっていても、少し時間が経つと「もしこの場に来ていなかったら、買わなかったかも…」というもの、ありませんか?
私も何度もそんな衝動買いをしてきました。
結果的に、そうした品はコーディネートに悩んだり、着こなせなかったりすることが多く、後悔の種になってしまうことも。
とはいえ、すべてが無駄だったわけではなく、中にはおすすめされた中で本当に買ってよかったと思える品もありました。だからこそ、毎回の判断が難しいところです。
今あるもので代用できないか考えてみる
新しいものが欲しくなったときは、まず今持っている着物や帯、小物で代わりになるものがないか考えてみましょう。
手持ちのアイテムを見直したり、いつもと違う組み合わせを試してみるだけでも、新たな魅力を発見できることがあります。
「今あるものを活かす」という視点は、買わずに浮いたお金で何処かに出かけるなど、着物を楽しむ暮らしをより豊かにしてくれます。
つい目新しいものに惹かれてしまうのは、もしかすると、自分を納得させるための言い訳だったのかもしれません。
そして、代用が難しいと感じたときは合わせたい物を持って買い物に行くことです。
私の場合は、お店で合わせてみると持っているものと一緒のもので代用できることがわかりました。
「どうしても欲しい」と思ったら、余裕資金で
それでも「どうしても欲しい!」と思えるものに出会ったときは、生活に支障のない範囲で、無理のない予算から購入するように心がけましょう。
そのためにも、日ごろから少しずつ“着物のための予備費”を確保しておくと、気持ちにも余裕が生まれます。
結果的に、後悔することなく、心から大切にできる一枚になります。
心に余裕があると、「本当に必要かどうか」を冷静に見つめ直すことができて、結果として買わずに済むこともあります。
着付け教室の販売会では、分割払いでお買い物をされている場面を何度も目にしてきました。
生徒さんの要望に合わせてなるべく良い買い物ができるようにアドバイスしていましたが、時には高額になってしまうことがありました。
もちろん、ご本人が心から欲しいと思っていて、無理のない範囲で購入されているのであれば問題はないと思います。
ただ、その様子を見ていて、正直あまり良い気分にはなれませんでした。
売る側としてはありがたいことかもしれませんが、買う立場になって考えると、やはりモヤモヤした気持ちが残ってしまいました。
他人の目より、自分の心地よさを大切に
「年齢的に、より質の良い素材を身につけておきたい」
「講師として、ある程度のものを着ていた方がいい」
そんな思いが先に立ち、自分の気持ちやお金の余裕よりも、“立場”を優先してしまうことがありました。
けれど今は、誰かの目ばかりを気にするのではなく、客観的な見え方もほどよく意識しながら、自分が気持ちの面でも経済的にも心地よくいられることを大切にしたいと思うようになりました。
自分らしく着こなしているときこそ、自然な笑顔が生まれ、それが一番素敵に映る――そんな実感があります。
他の人は、自分が思っているほど気にして見ていないものです。
また、年齢を重ねた今は、着心地の良さだけでなく、お手入れのしやすさや扱いやすさといった点も含めて、「心地よさ」を大事にするようになりました。
少ない枚数でも、満足できる着物ライフを
「たくさん持っていれば、いろんなコーディネートができて楽しくなる」と思ってどんどん買い足していた時期もありました。
でも、実は数が少なくても、着回しや工夫次第で十分楽しめるのです。実際、そうしていかなければならない年齢です。
着物は、「たくさん持っている」よりも、「今あるものをうまく使いこなす」の方が、むしろ輝いて見える気がします。
もちろん、あればあるほど選択肢は広がりますし、それはそれで魅力的です。
でも、収納場所や手入れの手間、管理のことを考えると、「持ちすぎない快適さ」も、着物を長く楽しむためには大切なのだと感じます。
気持ちと逆らわない程度に少ない枚数で楽しむことをおすすめします。
最後に
着物を買うという行為は、心がときめく楽しい時間でもあります。
でも、その選択が本当に自分にとって必要なものであれば、もっと心から満たされる着物ライフにつながるはずです。
30年以上にわたる着物生活の中で、私もいろいろな経験をしてきました。
ときには勢いで買ってしまい、「これは失敗だったな」と思うこともありました。
それでも、そんな経験があったからこそ学べたこともあり、後悔ばかりではありません。
果たしてそれが“自己投資”になったかは分かりませんが、過ぎたことはやり直せません。
最近では、使わなくなった着物をリメイクして活かすことで「これは良かった」と思えることもあります。
けれど正直、手間やコストを考えると、割に合わなかったな…と反省することの方が多いのが実情です。
私自身、これからも失敗してしまうことがあるかもしれません。
それでも、これまでの経験を通して学んできたことを、これから着物を楽しもうとしている方に少しでもお伝えできればと思い、この記事を書きました。
どうぞあなたも、「買う前に一呼吸」置いてみてください。
着物は、すぐに決断しなくても逃げていくものではありません。クールダウンしてください。
もし後になって売れてしまっていたとしても、それは「ご縁がなかったのだな」と思えれば、きっと心が軽くなります。「なくても暮らしていけます。」これは私の知人の帯屋さんの奥さんが言っていた言葉です。名言です。
「買う前に一呼吸」そうすることで、少ない数でも心地よく、軽やかに楽しめる着物生活がきっと待っています。
一度自分の手元に迎えたものは、いずれ自分で整理や始末をつけなければなりません。
それには、想像以上の手間や気力が必要になることもあります。
私自身がいちばん反省しているのは、あれこれ手を出しては整理しきれずに散らかしてしまったことです。
ちょっとシビアなお話になってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
着物を買うこと自体を否定しているわけではありません。
ただ、購入する前に「予算の範囲内かどうか」と「二束三文でいずれ手放すときのこと(後始末)」をしっかり考えてからにしてほしいのです。
この記事が少しでも参考になれば嬉しいです。
なお、着付け教室も開講しています。ご質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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